「ぜんげん葉」摘み

せんげん茶摘み麦蒔きが終わり、野良仕事が暇になると、畦畔茶樹の葉を摘んだ。これを当地では「ぜんげん葉摘み」といった。茶工場はこの葉を番茶にした。値段は春の茶と比べ比較にならぬほど安かったが、他に収入の途が乏しい農家はわずかな収入でも労をいとわずこの仕事に精をだした。

十二月に入るとぜんげん葉を本格的に摘んだ。枝だけ残して葉を全部こきとるので「ひっこき茶」ともいった。西風の吹く寒い季節、綿入れの「ののこ半纏」を着、指に布を巻き、さらにその上に針金を巻いて硬い葉を摘んだ。クリムシの繭も指の当たりがよいということで使う人がいた。この葉は茨城特有の番茶として、昭和初期から戦前・戦後を通して昭和三十二年ごろまで製造された。

この様子を、茶業に関する学識と技術の高さをかわれて茨城県の農林課に出向していた静岡県生まれの太田義十氏は、著書『茶路の旅』の中で次のように述べている。「昭和二年の初冬、猿島の田野を自転車を駆って走り廻ると、畑地の周辺に竹箒が逆立ててあるような錯覚に襲われた。何だろうと近寄ってみれば冬番茶をむしり取られた畦畔茶樹の無残な裸姿である。栄養分を形成する茶葉を失った茶樹から翌春、緑豊かな新芽茶が萌え出る筈がない。(中略)茶業組合が必死になってこの幣風を阻止しようと茶樹の愛護を呼びかけても、農家は将来を考える余地も乏しく、後の百より今の五十のたとえどおり、馬耳東風の感があった。背には腹は代えられず、銭になる仕事があれば見逃さない、無知と知りつつ冬番茶を摘んだ。」

「猿島町史」民俗編 第2章 第1節 田と畑 四 茶業

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